ゆうくんの、ねがい
おうちへ、もどった、ゆうくんは、おにいちゃんの、おへやへ、いきました。
おにいちゃんの、つくえの、よこには、ごみばこが、あります。ごみばこの、中は、わりばしが、いっぱいです。それは、おにいちゃんの、おうちだった、わりばしです。
ゆうくんは、ごみばこの、中の、ものを、ぜんぶ、つくえの、上に、出しました。つくえの、上は、たくさんの、わりばしと、ほかの、ごみで、いっぱいに、なりました。
ゆうくんは、おじいさんから、わたされた、こえだを、つくえに、むけました。それから、その、こえだを、くるくる、まわしながら、さけびました。
「おにいちゃんの、おうち、もとに、もどれ!」
すると、あら、ふしぎ。ばらばらに、なっていた、わりばしが、かってに、うごきだして、あれよ、あれよと、いうまに、こわれる、まえの、おうちに、なりました。
ゆうくんは、目と、口を、大きく、あけたまま、おうちと、つえを、なんども、みくらべました。それから、つくえに、かけよると、手で、おうちを、さわってみました。
おうちは、ちゃんと、できています。さわったぐらいでは、こわれません。
「やった! やった、やった!」
ゆうくんは、つえを、もったまま、へやの、中を、とびはねました。すると、げんかんで、ただいまと、いう、おにいちゃんの、こえが、しました。
ゆうくんは、いそいで、げんかんへ、いきました。おにいちゃんは、ふきげんそうに、ゆうくんを、じろりと、見ました。おかえりと、いっても、へんじを、してくれません。
「あら、どうしたの? はやかったのね。おともだちには、あえなかったの?」
だいどころから、出てきた、おかあさんが、おにいちゃんに、こえを、かけました。
「きゅうに、かぞくで、出かける、ことに、なったんだってさ」
くつを、ぬいだ、おにいちゃんは、おもしろくなさそうに、いいました。
こっち、きて、と、ゆうくんは、おにいちゃんの、手を、ひっぱりました。おにいちゃんは、おこって、ゆうくんの、手を、ふりはらいました。でも、ゆうくんは、あきらめません。
「あのね、おにいちゃんの、おうち、ゆうくんが、なおしたの。だから、見て」
「うるさい! かってな、ことを、するな!」
おにいちゃんは、ゆうくんを、にらんで、じぶんの、へやへ、いきました。そして、つくえの、上を、見ると、おどろいたように、かけよりました。
おうちを、手で、さわって、たしかめている、おにいちゃんに、ゆうくんは、とくいになって、いいました。
「ほらね。その、おうち、ゆうくんが、なおしたんだよ」
ゆうくんは、おにいちゃんが、よろこんでくれると、おもっていました。だけど、ふりむいた、おにいちゃんは、おこっていました。
「だれが、やった?」
「だれって、ゆうくんが、なおしたんだよ?」
「うそつけ! おまえに、なおせる、わけ、ないだろ。だれが、やった? いえよ!」
「ゆうくんが、なおしたんだってば。ほら、こう、やって、なおしたの」
ゆうくんは、おじいさんの、つえを、くるくる、まわしてみせました。すると、おにいちゃんは、もっと、おこりだしました。
おにいちゃんは、ゆうくんから、つえを、うばいとりました。それから、りょうてで、その、つえを、ポキンと、おって、すててしまいました。
「この、うそつき! 人を、からかうのも、いいかげんに、しろ!」
おにいちゃんは、どなりました。だけど、ゆうくんの、耳には、きこえていません。
ゆうくんは、いそいで、おれた、つえを、ひろいました。ちっちゃな、おじいさんが、かしてくれた、たいせつな、つえです。だけど、二つに、おれた、つえは、もう、もとには、もどりません。ゆうくんは、おれた、つえを、むねに、だいて、なきました。
「なにを、さわいでるのよ?」
やってきた、おかあさんは、つくえの、上の、おうちを、見て、おどろきました。
「まあ、どうしたの、これ?」
「こいつ、じぶんが、つくったって、いいはるんだ!」
おにいちゃんは、ないている、ゆうくんを、見ながら、すこし、こまったような、かおで、いいました。
「ゆうくん、これ、だれが、なおしたの? おかあさんに、おしえて」
おかあさんは、やさしく、こえを、かけました。だけど、ゆうくんは、かなしくて、おへんじが、できません。だって、おじいさんが、かしてくれた、つえを、おられてしまったのです。
こまった、おかあさんは、おにいちゃんを、見ました。おにいちゃんも、おこっていたはずなのに、しゅんと、なっています。
おにいちゃんは、しょんぼりしたまま、ゆうくんの、そばへ、くると、しずかな、こえで、いいました。
「ゆう。おにいちゃん、もう、おこらないから、だれが、この、いえを、つくったのか、おしえてくれよ」
ゆうくんは、なきながら、ちっちゃな、おじいちゃんに、つえを、かしてもらった、ことを、はなしました。だけど、おにいちゃんは、しんじてくれません。
すると、おかあさんが、いいました。
「おとうさんも、こどもの、ころ、じんじゃで、そんな、おじいさんを、見たことがあるって、いってたよ。おかあさん、ほんきに、してなかったけど、そんな、おじいさんが、ほんとに、いるんだね」
おにいちゃんは、おどろきました。でも、ゆうくんには、かんけいありません。
ゆうくんは、なきじゃくりながら、いいました。
「ゆうくんね、おにいちゃんに、あそんでほしかったの。でもね、おにいちゃん、あそんでくれないから、おうち、こわしちゃったの。ほんとはね、ゆうくん、おにいちゃんと、いっしょに、おうちを、つくりたかったの」
おにいちゃんは、おかあさんを、見ると、ゆうくんの、よこに、しゃがみました。
「わるかったよ。こんどから、もっと、おまえと、いっしょに、あそぶから」
「ほんと?」
「ほんとさ。うそじゃ、ないって、しょうこに、いまから、ふたりで、いえを、つくろ」
ゆうくんは、目を、まるくして、おかあさんを、見ました。おかあさんは、にこにこ、わらいながら、よかったねと、いいました。
「いいか、ここは、こうするんだぞ。ほら、やってみな」
おにいちゃんは、おてほんを、みせてから、ゆうくんに、わりばしを、わたしました。ゆうくんは、その、わりばしを、おそるおそる、さきに、おにいちゃんが、つくった、ところに、ひっつけます。よこでは、おかあさんが、たのしそうに、ながめています。
「あ、できた! できたよ、おにいちゃん!」
「ほんとだ。やれば、できるじゃないか」
おにいちゃんに、あたまを、なでられ、ゆうくんは、うれしそうです。おかあさんも、手をたたいて、ゆうくんと、おにいちゃんを、ほめてくれました。
その、ようすを、ちっちゃな、おじいさんが、へやの、すみで、見ています。おじいさんの、あしもとには、おれた、つえが、わすれられたように、おちています。
おじいさんは、おれた、つえを、ひろいあげると、ちょっとだけ、ためいきを、つきました。それから、ほっほっと、わらって、すがたを、けしました。
(おしまい)