おじいさんの、つえ
「どうした、ぼうず? なにを、ないておったのじゃ?」
おじいさんは、しゃがんだままの、ゆうくんに、たずねました。
からだが、小さい、せいか、おじいさんは、こえも、小さいです。すこし、かすれたような、こえで、ひそひそと、しゃべるみたいな、はなしかたです。
おじいさんに、たずねられて、ゆうくんは、おにいちゃんの、ことを、おもいだしました。すると、また、かなしくなりました。
なきそうになった、ゆうくんは、下を、むきながら、いいました。
「あのね、ゆうくんね、おにいちゃんと、あそびたかったの」
おじいさんは、ゆうくんの、ことばに、うなずきました。
「そうか、そうか。おにいちゃんと、あそびたかったのか。それで、ぼうずの、おにいちゃんは、どこに、おるんじゃ?」
「おにいちゃんね、ゆうくんを、おいて、ひとりで、あそびに、いっちゃったの」
そこまで、しゃべると、ゆうくんは、また、なきました。
おじいさんは、ほっほっと、わらうと、ゆうくんの、あたまを、なでました。
「よしよし、もう、なくな。なくのを、やめたら、なんでも、ほしい、ものを、やろう」
ゆうくんは、ぴたりと、なくのを、やめて、おじいさんを、見ました。
「なんでも、いいの?」
「ああ、なんでも、いいぞ。ぼうずは、とくべつじゃからな」
「とくべつって?」
「むかしはな、このあたりには、こどもが、たくさん、あそびに、きたものじゃった。それが、ちかごろは、ちっとも、きてくれん。だから、ぼうずは、とくべつなんじゃよ」
「ふーん」
おじいさんが、いっている、ことは、ゆうくんには、よく、わかりません。だけど、おじいさんが、ゆうくんの、ことを、よろこんで、くれているのは、わかりました。
「さあ、いってみろ。なにが、ほしい?」
ゆうくんは、かんがえました。ほしい、ものは、いろいろ、あります。
ロボットの、おもちゃも、ほしいし、おいしい、ソフトクリームも、たべたいです。どうぶつえんの、ライオンも、かってみたいし、サッカーボールも、ほしいです。
「さあ、なにが、ほしい?」
「あのね、ゆうくんね、おうちが、ほしいの」
おじいさんは、おどろいた、かおで、いいました。
「おうち? ぼうずには、いえが、ないのか?」
「その、おうちじゃなくてね、わりばしで、つくった、おうちが、ほしいの」
「わりばしの、いえ? なんじゃね、それは?」
ゆうくんは、おにいちゃんが、つくった、おうちの、ことを、せつめいしました。
おじいさんは、にこにこしながら、うなずきました。
「そうか、そうか。おにいちゃんと、おなじ、ものが、ほしいんじゃな」
「そうじゃないの。ゆうくんね、おにいちゃんの、おうちをね、こわしちゃったの。だからね、ゆうくん、おにいちゃんの、おうちを、なおしたいの」
おじいさんは、また、おどろいた、かおで、ゆうくんを、見つめました。
「ぼうずは、ちっこいのに、えらいんじゃな。そうか、そうか。おにいちゃんの、おうちを、なおしたいのか」
じぶんより、ちっちゃな、おじいさんに、ちっこいと、いわれたのです。ゆうくんは、ほっぺたを、ふくらませました。
「ゆうくん、おじいちゃんより、おっきいよ」
それを、きいて、おじいさんは、大わらいを、しました。
「すまん、すまん。たしかに、ぼうずの、ほうが、わしより、でっかいな」
ゆうくんは、きげんを、なおして、いいました。
「おじいちゃん、おにいちゃんの、おうち、なおせる?」
「なおせるとも。じゃが、なおすのは、ぼうずじゃ。ぼうずが、じぶんで、なおすんじゃ」
「ゆうくん、なおせないよ」
「だいじょうぶじゃ。この、つえを、ぼうずに、かしてやろう」
おじいさんは、もっていた、つえを、ゆうくんに、わたしました。つえと、いっても、ただの、木の、こえだのようです。
「この、つえをな、くるくる、まわしながら、ねがいごとを、いうんじゃ。そしたら、ぼうずの、ねがいが、かなうぞ」
ゆうくんは、しばらく、つえを、ながめてから、おじいさんに、いいました。
「おじいちゃんが、やってよ。ゆうくん、できない」
「いや、できるとも。それにな、これは、ぼうずでないと、むりなんじゃ」
「どうして?」
「ぼうずの、ねがいは、ぼうずしか、かなえられんのじゃ。わしでは、むりなんじゃよ」
ゆうくんは、また、つえを、見つめました。どう、見ても、ただの、こえだです。そんな、ふしぎな、力が、あるようには、見えません。
だけど、ゆうくんは、やってみることに、しました。
「おじいちゃん、ありがと。ゆうくん、やってみる」
おじいさんは、ほっほっと、わらうと、すっと、すがたを、けしました。
ゆうくんは、おどろいて、あたりを、みまわしました。だけど、おじいさんの、すがたは、どこにも、ありません。のこされたのは、ゆうくんの、てに、ある、おじいさんの、つえだけでした。