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いなくなった久美

 普通の乗用車と比べると、軽トラックは乗り心地ごこちがいいとは言えなかった。でも、荷台の兄貴のことを思えば文句は言えない。
 道は比較的真っぐで、それほど揺れはしなかった。それでも座席のない兄貴は、荷台にへばりつくように坐って、必死に身体を支えていた。
 しばらくすると軽トラックは、とても古そうな家に着いた。家の前には車が一台も止まっていない。中もしんと静まり返っていて誰もいないみたいだ。本当にここが久美くみのおばあちゃんの家なのだろうか?
 わたしは軽トラックを降りて表札を確かめると、玄関の呼びりんを押した。中で呼び鈴が鳴っているのが聞こえる。だけど、それに対する反応のようなものが何もない。
「どうした? 誰もいないのか?」
 後ろで兄貴が首や肩を回しながら言った。やはり軽トラックの荷台はこたえたらしい。兄貴の後ろでは、軽トラックの運転席から中村なかむらさんが様子をうかがっている。
 そうみたいと答えたわたしは、急に不安がつのり出した。
 郵便局から持ち続けていた久実の手紙を胸に押し当てながら、わたしは久美が出て来てくれることを祈った。だけど久美は現れないし、誰も出て来ない。この家ではないのか? それとも久実は入れ違いに東京へ とうきょう 帰ったのだろうか?
「どがいした?」
 中村さんが声をかけた。わたしは中村さんのそばへ戻ると、誰もいないみたいですと説明した。すると、近くの民家から出て来た年配の女性が、不審そうにわたしたちを見た。
「あんたら、誰ね?」
 わたしは慌てて説明しようとしたが、先に中村さんが女性に言った。
「わしは郵便局の中村いうもんやけんど、この子らが東京から兵頭久 ひょうどう 美いう女の子を訪ねて来たんでな。ほれで、ここへ連れて来てみたんよ。先日亡くなったここのばあさまが、その子のばあちゃんやないかと思たんでな」
 久美やて?――と女性は顔をしかめた。
「あの子やったら、もうんだろ。葬式は昨日終わったけんな」
「いんだって……」
 こっちの言葉がわからない兄貴が、独り言のようにつぶやいた。わたしはかまわず女性に言った。
「失礼ですけど、あなたは久美の親戚の方ですか?」
「うちはあの子の伯母や。言うても、ぃはつながっとらんで。あの子の義理の父親が、うちの弟なんよ」
「義理の父親?」
 聞き直したわたしに、女性はいらだったように言った。
「あんた、何も聞いとらんのかいな。あの子の母親はうちの弟と再婚したんよ。ほやけん弟はあの子の義理の父親じゃ。ほんでも、その弟も死んでしもたけどな」
「え? お父さんが死んだ? いつですか? まさか、おばあちゃんが亡くなったのと同じときに?」
 久美の伯母さんという女性は、あきれたような顔を見せた。
「あんた、ほんまに何も聞かされとらんのやな。わざわざ東京から来た言うけんど、久美の方はあんたのこと、友だちやとは思とらんのやないんか?」
 わたしは伯母さんの毒舌に圧倒されて返事ができなかった。代わりに兄貴が後ろから伯母さんに尋ねた。
「そんなことより、久美さんのお父さんが亡くなったのは、いつのことですか?」
 伯母さんはじろりと兄貴を見てから、二年前の夏だと言った。
「弟はな、寝る間もないぐらい仕事が忙しかったんよ。ほんでも、あの子が海に行きたいて言うたけん、疲れた体にむち打って、あの子を島へ連れて行ったんよ」
 瀬戸内海せとないかいは一見穏やかに見えるが、実際は複雑な潮の流れがあり、船の衝突事故もよく起こるらしい。
 よく知らない海は危ないから、浜から離れないようにと、久美は父親から言われていたはずだった。しかし、久美は注意を守らず浜から離れ、沖へ流されてしまったと言う。
「弟はあの子を助けよとして、あの子を追いかけたそうな。ほんでも、体がへろへろやったけんじゃろね。途中で溺れて死んだんよ」
 わたしは衝撃を受けた。久美から聞いた話では、久美は父親の仕事の関係で東京へ来たはずだった。
 何故久美は本当のことを話してくれなかったのか。他にも話してくれていないことがあるのだろうか。久美は松山まつやまでいじめ事件を起こしたために東京へ逃げて来たらしいと、頭の中で満里奈まりなしゃべっている。
 伯母さんは言葉を失ったわたしに構わず話を続けた。
「あの子がちゃんと言うとおりにしよったら、弟は死なずに済んだんよ。死ないでもええ弟を死なせといて、あの子はちゃっかり他の人に助けてもらいよった。うちの弟は犬死にや。わざわざ死ぬために、あの子の母親と一緒になったようなもんじゃ。歳が五つも離れた年増としまで、連れ子までおるような女にだまされてしもて」
「ほら、言い過ぎやろ。本人らがええ思て一緒になったんなら、他人がとやかく言うもんやなかろがな」
 中村さんがたまりかねたように言った。しかし、伯母さんは悪びれずに言い返した。
「ほれこそ他人のあんたが口挟むことやなかろがね。弟は父親の後継いで漁師になるはずやったんよ。たった一人の後継ぎやったのに死んでしもたけん、父親は毎日ほうけたようになってな。ほれで、車にはねられて死んでしもたんよ」
 そこまで言ってから、伯母さんは今度はわたしたちに向かって言った。
「ほんでも、うちの母親はあの子を慰めて励ましよった。ほれやのに、あの子は中学校で騒ぎ起こして、こともあろうかPTAの会長さんの娘らに怪我させたんよ。ほれで、こっちにはおられんようになってしもて、東京へ逃げくさったんじゃ」
「それは確かなことなんですか?」
 兄貴が尋ねると、当たり前じゃろがねと伯母さんはみつきそうな顔で言った。
「その話聞いたうちの母親は、ほれから血圧がえらいたこなってしもてな。とうとう頭の血管が切れて死んでしもた。あの子はうちの弟ばかりか、父親と母親まで死なせたんよ。うちらにとって、あの子は疫病神以外の何でもないで」
 疫病神という言葉に、わたしはどきんとなった。夢の中で矢が久美の胸を貫いたとき、誰かが叫んだのがこの言葉だ。
 わたしは悟った。夢で見た矢は、久美を罵った者が放った言霊ことだまに違いない。そして疫病神という呪いの言葉を放ったのは、この伯母さんだ。
 わたしの中で伯母さんに対する怒りがみるみる膨らんだ。
「久美は疫病神なんかじゃない!」
「何怒りよるんよ。うちは事実を話しとるぎりじゃろがね」
「久美のお父さんが亡くなったのは、久美のせいなんかじゃない! おじいちゃんやおばあちゃんだって久美は大好きだったんだから、久美が疫病神のはずがないでしょ!」
「あの子に好かれたもんは死んでしまうんよ。ほれが疫病神でのうて何やて言うんよ?」
「わたしは死んでないし、死んだりしない! だから久美は疫病神なんかじゃない!」
 伯母さんは当惑したように息を吐くと、この子たちを早く連れて帰れと中村さんに言った。それから伯母さんは憤っ いきどお た様子でわたしに言った。
「だいたい、なんでうちが初対面のあんたにそげなこと言われないけんのや? あんたはうちらにとって、まったくの赤の他人じゃろがね。東京の人間いうんは、そがぁに礼儀知らずなんか」
 険悪な雰囲気の中、まぁまぁと中村さんが伯母さんをなだめて言った。
「とにかく、ここにはその久美いう子はおらんのじゃな?」
「おるもんかね。葬儀に呼んだわけでもないのに、母子おやこで勝手に来よったんよ。そげなもんらをここへ置いたりするわけなかろ?」
「わしにそがぁなこと言われても困らい。ほんでも、その子らがここに泊まったんやないんなら、昨夜ゆんべはどこに泊まったんかな」
「従兄のまさにいとこに泊めてもろたみたいな。母親のことをあの二人に知らせたんも政兄やけんな。まったく余計なことぎりしてくれる従兄じゃ」
「まさにいって?」
 尋ねたわたしに、伯母さんは面倒臭げに言った。
「名前が政吉まさきちやけん、政兄や」
「ほの政吉いう人の家は、どこにあるんぜ?」
 口汚く喋る伯母さんに、中村さんは穏やかに話しかけた。そうして政吉という人の家の場所を伯母さんから聞き出すと、行くぜ――とわたしたちに言った。
 わたしは伯母さんをひとにらみしてから中村さんのあとに続いた。でも兄貴は伯母さんにぺこりと頭を下げた。口が悪くても、一応は政吉という人の家を教えてくれたことへのお礼ということだろう。それと東京の人間が礼儀正しいというところを、示したつもりもあるに違いない。

 軽トラックに乗り直したわたしたちは、少し離れた所にある集落へ移動した。もちろん兄貴は後ろの荷台の上だ。
 伯母さんが言ったように、久美がわたしたちと入れ違いで東京へ戻ったのであれば、それはそれで構わない。向こうで久美はわたしの無事を知るはずだから。だけど、久美が東京へ戻ったということを確かめるまでは安心できない。わたしの胸の中では、不安が騒ぎ続けている。
 ある家の前に軽トラックを停めた中村さんは、わたしたちより先に降りて、その家の呼び鈴を押した。あとから降りたわたしは、どきどきしながら出て来る人を待った。わたしの後ろでは、兄貴が首と肩を回しながら、やはり緊張した顔で中村さんを見ている。
 中村さんは何度か呼び鈴を押したけど、誰も出て来ない。わたしの中の不安が、ざわっと大きく膨らんだ。
 表札に出ている名前を確かめた中村さんは、おかしいなと言った。
「家は間違まちごとらんみたいなけんど、誰っちゃおらん。誰ぞ一人ぐらいおってもよさそうなんやがな」
「もしかして、みんなで久美さんたちを見送りに行ったんじゃ……」
 兄貴が遠慮がちに言うと、ほうかもしれんな、と中村さんはうなずいて腕時計を見た。
「松山方面の列車が来るまで、まだ一時間以上あるな。駅まで見送りに行くにしたら、ちぃと早過ぎると思うけんど、見に行くか?」
 わたしたちがうなずくと、中村さんはわたしたちを軽トラックに乗せて、わたしたちが降り立った駅へ向かった。
 ところが駅にいたのは、駅から海の写真を撮りに来た観光客たちばかりで、久美も見送りらしき人たちもいなかった。
「もう一本早い列車に乗ったんだろうか?」
 兄貴が松山へ向かう線路を見つめながらつぶやいた。そのつぶやきを耳にした中村さんが、じゃったらにいやんらが見つけとらい――と即座に言った。
 どういうことかと聞くと、もう一本早い列車というのは、わたしたちが乗って来た列車だと中村さんは説明した。それほどここは列車の数が少ないらしい。
 もし久美がその列車に乗っていたのなら、松山駅で列車を降りた久美とわたしたちが、顔を合わせていたはずだと中村さんは言った。
 確かに、一両編成で乗車口が一つだけしかない列車から、久美が降りて来たのだとしたら、わたしが見逃すはずがない。東京と違って降りて来た人の数も多くなかったから、久美が他の人に隠れて見えないということもなかった。
 あの列車に久美は乗っていなかったし、次の列車に乗るわけでもなさそうだ。それは久美が東京へ戻ったわけではないし、戻るつもりもないということだ。では、久美はどこへ行ったのか。わたしは寒いものを感じた。
 中村さんはわたしたちを軽トラックに乗せると、もう一度さっきの家に戻った。すると家の前でうなだれる女の人と、その人を慰めているような男の人がいた。
 軽トラックに気づいたように二人が顔を向けると、わたしは急いで車を降りた。男の人の方は知らないけれど、女の人は久美のお母さんだった。久美の家に遊びに行ったとき、久美のお母さんと顔を合わせていたので、すぐにわかった。
「おばさん!」
 わたしが駆け寄ると、久美のお母さんはとても驚いたようだった。
春花はるかちゃん? 春花ちゃんか?」
「おばさん、久美は? 久美はいるんですか?」
 わたしの言葉を聞いた久美のお母さんは、顔をゆがめて泣きそうになった。
「久美はおらんなってしもたんよ」
 わたしの中の不安が絶望に変わろうとしていた。わたしは必死に気持ちを抑えながら尋ねた。
「いつからいなくなったんですか?」
「朝ご飯食べたときはおったんよ。そのあと、ぶらっと外へ出たきりんて来んのよ。帰りの列車はお昼やし、あの子の荷物はそのままやったけん、その辺におるもんやとばっかし思いよった。一時間ほど前になって、ようやっとあの子がおらんなったてわかってな、ほれでみんなで手分けして探しよったんやけんど、どこっちゃ見つからんのよ」
「まだわからんで。尚子なおこらが見つけとるかもしらんけん」
 隣にいた男の人が、久美のお母さんを慰めた。誰だろうと思っていると、久美のお母さんが、この人は夫の従兄の政吉さんだと言った。それからお母さんはわたしのことを男の人に説明したが、兄貴に気づいて、こちらは?――とわたしを見た。
「わたしの兄です。わたしが久美に会いに行くって言ったら、ついて来てくれたんです」
 ほぉと政吉さんが声を出し、久美のお母さんも驚いた顔で照れ気味の兄貴を見た。
「春花ちゃんが久美に会いに来てくれたぎりでもびっくりやのに、お兄さんまでおいでてくれたやなんて……」
「いえいえ、いつもこんな感じなんですよ」
 兄貴は少しうれしそうに言った。何がいつもこんな感じだ。兄貴はまったく調子のいいことばかり言う。
「ほやけど、学校があるんやないか?」
 政吉さんが尋ねると、えぇまぁと兄貴は言葉を濁した。少し当惑したような顔の口元はにやついている。学校があるのに妹に付き添ってここまで来たのかと、感心してもらえるのを期待しているようだ。
 でも、そのことを政吉さんが言う前に、久美のお母さんがわたしに言った。
「そがぁ言うたら、春花ちゃんかて入院しよったんじゃろ? ひどい肺炎らしいて久美から聞いたけんど、春花ちゃん、もう体はええんか?」
「はい。みんなに助けてもらって、何とか回復することができました」
「ほうなんか。ほれはよかったけんど、ほれにしたかて病み上がりじゃろ? こがぁにやつれてしもて……」
 久美のお母さんはわたしの手を取りながら、病院はいつ退院したのかと言った。一昨日ですと答えると、お母さんは驚いたように目を丸くした。また隣の政吉さんも、同じような顔でわたしを見た。
「退院したばっかしやのに、そがぁな体でこがぁなとこまでおいでてくれたんか。お母さんはこのこと知っておいでるん?」
「はい、知ってます」
 ね――とわたしは兄貴を振り返った。政吉さんの感心の言葉をさえぎられ、所在なげにしていた兄貴はびっくりした様子で、何が?――と言った。
「お母さん、わたしたちがここに来てること、知ってるもんね?」
「え? あ、あぁ、知ってます」
 本当は黙って来たんだけど、それがばれてしまい、トラックの中で兄貴は母からこっぴどくしかられた。でもそれで事情を説明したし、そのあとも兄貴がこまめに報告しているみたいだから、母がわたしたちがここにいることを知っているのは本当だ。
「ほんまに? ほやけど、あんたらのお母さん、よう許してくれたもんじゃね。あたしじゃったら絶対に許さんで。あんたらはよっぽどお母さんから信頼されとるいうことなんじゃねぇ」
 久美のお母さんが政吉さんに顔を向けると、まったくじゃと政吉さんもうなずいた。
「普通はそがぁなことは許さんぜ。しかも今聞いた話じゃ、ねえやんはひどい肺炎で入院しよったばっかしなんじゃろ? いくら兄貴がついてくれとる言うても、そがぁな子を親はこがぁなとこまで来させたりすまい。ほれで、こっちには飛行機で来たんかな?」
 すかさず兄貴が、ヒッチハイクで来ました――と言った。
「ヒッチハイク? 東京からここまで?」
 政吉さんは驚いたというより、呆れたみたいに目を見開いた。わたしは慌てて言い足した。
「本当は今日の新幹線でってことだったんですけど、それじゃあ遅くなっちゃうから、親切なトラックの運転手さんにお願いして、昨日のうちに運んでもらったんです」
「全部で三台のトラックのお世話になりました」
 兄貴が得意げに補足した。
 久美のお母さんは驚いて政吉さんと顔を見交わすと、どうしてそこまでしてここへ来たのかとわたしに言った。
 わたしは久美からもらった手紙を読んで、久美が心配になったからだと言った。久美のお母さんの目は、みるみる涙でいっぱいになった。
「春花ちゃんぎりじゃ……。あの子のことをそこまで想てくれるんは、春花ちゃんぎりじゃ……」
 久美のお母さんはわたしの手を取り、わたしを抱きしめた。
「こがぁな体で、ようおいでてくれたね……。ありがとう……。ありがとう……」
 わたしはお母さんの子供になりたくて、この世界に生まれて来た。それは久美だって同じはずだ。久美もこのお母さんの子供になりたくて生まれたのだし、久美のお母さんも久美と出えるのを待ち望んでいたはずだ。その久美がいなくなったことで、久美のお母さんがどれだけ心を痛めているかと考えると、わたしは胸が締めつけられた。
 久美のお母さんはわたしから離れると、涙を拭きながら言った。
「ほれにしたかて、ようこの場所がわかったもんじゃね」
「郵便局の中村さんに連れて来てもらったんです。中村さん、お仕事があるのに、ずっとわたしたちに付き合ってくれて、一緒に久美を探してくれているんです」
「あの、久美さんの手紙の消印に伊予灘いよなだ郵便局って書いてあったんで、それで取りえずここまで来てみたんです」
 兄貴が付け足して言ったけど、久美のお母さんは兄貴の頭のよさには気づかず、ほうやったんかと中村さんに頭を下げた。それに合わせるように、政吉さんも頭を下げた。
 二人に頭を下げ返した中村さんは、そろそろ仕事に戻るとわたしたちに言った。
「何や、えらいことになっとるみたいなけんど、わしもせんといけんことがあるけん」
 ほんの短い間だったけど、もう中村さんはわたしたちの仲間みたいな感じだった。その中村さんの離脱はやっぱり心細かった。それでも無理なことは言えない。赤の他人の中村さんにここまでしてもらえただけでも感謝だ。
 わたしと兄貴が中村さんにお礼を述べていると、女の人が一人あせったような顔でやって来た。
「あんた、久美ちゃん、おらんで」
 女の人はわたしたちを見ながら、まず政吉さんにそう言った。それから、この人らは?――とわたしたちのことを見ながら言った。
 東京から久美に会いに来た友だちだと説明した政吉さんは、この女の人を女房の尚子だとわたしたちに紹介した。
 そこへまた別の若い女性二人がやって来て、おらんわ――と政吉さんたちに言った。
 政吉さんはまたわたしたちに自分の娘たちだと説明し、彼女たちにわたしたちを紹介した。二人は和美かずみさんと八重やえさんと言い、どちらも近くの会社で働いているらしい。
 わたしは挨拶もそこそこに、久美が見つからないのかとみんなに尋ねた。政吉さんの家族は黙ってうなずき、久美のお母さんは嗚咽おえつした。
 様子を見ていた中村さんは、ほんじゃあと申し訳なさそうに小声をかけると、軽トラックに乗って行ってしまった。
「とにかく警察に連絡しよや」
 政吉さんはそう言うと、家の中へ入って行った。
 娘さん二人がそのあとに続くと、硬い表情をしている久美のお母さんに、中へ入るよう尚子さんがうながした。それから尚子さんはわたしたちを振り返ると、お二人もどうぞと招き入れてくれた。