ゆうくんは、こわしやさん
ゆうくんは、こわしやさんです。おにいちゃんが、そう、いうのです。
なんで、こわしやさんなのか。それには、わけが、あります。
ゆうくんの、おにいちゃんは、なにかを、つくるのが、大すきなんです。それで、いえに、ある、もので、いろんな、ものを、つくります。
たとえば、ダンボールの、かみで、大きな、かいじゅうを、つくります。おもちゃの、ブロックを、くみあわせて、ロボットを、つくったりも、します。
それなのに、ゆうくんは、それを、すぐに、こわしてしまうのです。
だから、おにいちゃんは、ゆうくんの、ことを、こわしやさんと、いうのです。
このまえ、おにいちゃんは、おとうさんに、おしえてもらいながら、たくさんの、わりばしで、小さな、おうちを、つくりました。
わりばしの、ながさや、ふとさを、そろえ、それを、せっちゃくざいで、一本、一本、ていねいに、ひっつけて、つくったのです。とても、てまが、かかった、さくひんで、おにいちゃんの、じまんの、おうちでした。
おにいちゃんは、その、おうちを、つくえの、上に、たいせつに、かざっていました。こわしやさんの、ゆうくんは、この、おうちに、ちかづかないよう、おにいちゃんから、きつく、いわれています。
でも、おにいちゃんが、いない、ときに、ゆうくんは、その、おうちに、ちかづいていきました。手には、つばさが、まがった、ひこうきの、おもちゃを、もっています。
ブーンと、ひこうきを、つくえの、まわりで、とばしながら、ゆうくんは、したたらずの、こえで、ひとりで、しゃべります。
「たいちょう、あそこに、なにか、あります。あれは、なんでしょうか?」
「わかったぞ。これは、てきだ! てきを、はっけん。てきを、はっけん!」
「たいちょう、どうしましょう?」
「きまってるだろ。ただちに、こうげきだ!」
「ラジャー! いなづまごう、ただちに、こうげきします」
いなづまごうと、いうのは、ひこうきの、名まえです。
ゆうくんは、ひとりで、おしばいを、しながら、ひこうきを、もった、手を、おもいっきり、上に、のばしました。それから、力を、こめて、ブーンと、いいながら、ひこうきを、もった、手を、ふりおろしました。
ゆうくんが、ドカーンと、さけぶのと、いっしょに、ひこうきは、おうちに、ぶつかりました。かわいそうに、おにいちゃんの、おうちは、こわれてしまいました。でも、かんぜんには、こわれていません。ゆうくんは、なんども、おうちを、こうげきしました。
「こうげき、かんりょう。こうげき、かんりょう」
「よく、やったぞ、いなづまごう」
「では、いまから、きちに、もどります」
いつも、こんな、かんじで、おにいちゃんが、つくった、ものを、ゆうくんは、こわしてしまうのです。
ひこうきを、ぶつけても、こわれなければ、ゆうくんは、かいぶつに、へんしんします。
かいぶつに、なった、ゆうくんは、ガオーとか、ギエーとか、さけびながら、おにいちゃんが、つくった、ものに、おそいかかります。ガブリと、かみついたり、かべに、ベシャッと、なげつけたり、足で、グシャッと、ふみつぶしたり、手で、ブチッと、ひきちぎったり、するのです。
あとで、それを、見た、おにいちゃんは、とうぜん、おこります。
でも、ゆうくんを、たたいたりしたら、おかあさんに、しかられます。だから、口で、おこるだけです。だけど、それぐらいでは、ゆうくんは、へっちゃらです。
それでも、わりばしの、おうちは、おにいちゃんの、りきさくでした。くろうして、やっと、かんせいさせた、じまんの、おうちだったのです。
ぜったい、おうちに、ちかづかくなと、おにいちゃんは、ちゃんと、ゆうくんに、ちゅういしました。それなのに、その、おうちを、こわされたのです。ばらばらに、なった、おうちを、見た、ときの、おにいちゃんの、くやしがりようと、いったら、ありません。おもわず、ゆうくんを、つかまえて、たたく、ところでした。
だけど、おにいちゃんは、てを、ふりあげただけで、たたきは、しませんでした。
かわりに、目に、いっぱい、なみだを、うかべて、ゆうくんを、にらみました。それから、大きな、こえを、出して、なきました。
これまで、ゆうくんに、つくった、ものを、こわされても、おにいちゃんは、なきませんでした。それが、こんどは、ないたので、ゆうくんは、とても、おどろきました。
ゆうくんは、じぶんが、わるいことを、したのは、わかっています。いままでだって、そうなんです。
でも、ゆうくんが、そんな、ことばかり、するのは、おにいちゃんが、きらいだからでは、ありません。おにいちゃんが、大すきだからなのです。
ゆうくんは、おにいちゃん、みたいに、ひとりで、なにかを、つくることが、できません。つくろうと、しても、じょうずに、できないから、すぐに、あきてしまうのです。
ゆうくんは、おにいちゃんと、いっしょに、あそびたいのです。なにかを、つくるのなら、大すきな、おにいちゃんと、いっしょに、つくりたいのです。
だけど、おにいちゃんは、いつも、ひとりで、つくることに、むちゅうに、なります。ゆうくんの、あいてなんか、してくれません。
まるで、おにいちゃんが、つくる、ものに、おにいちゃんを、とられたみたいです。
それで、ゆうくんは、おにいちゃんが、つくった、ものが、にくらしくなって、こわしてしまうのです。
それに、こわすことで、おにいちゃんに、ゆうくんの、きもちに、きづいてほしかったのです。
だけど、おにいちゃんは、ゆうくんの、きもちに、きが、ついてくれません。それどころか、はんたいに、ゆうくんの、ことが、きらいになる、みたいでした。
それが、ゆうくんには、かなしかったのです。それなのに、おかあさんにも、しかられると、もっと、かなしく、なりました。
おかあさんも、ゆうくんの、ほんとうの、きもちを、わかってくれて、いないのです。
いつも、そうなのですが、おかあさんは、おにいちゃんに、あやまりなさいと、ゆうくんに、いいます。このときも、そうでした。
しかたなく、ゆうくんは、おにいちゃんの、そばへ、いって、あやまりました。
「おにいちゃん、おうち、こわして、ごめんね」
「うるさい! あっちへ、いけ!」
おにいちゃんは、かおも、上げずに、ゆうくんを、おいはらおうと、しました。
こまった、ゆうくんは、おかあさんを、見ました。
おかあさんは、ためいきを、つくと、だいどころへ、もどってしまいました。おにいちゃんに、あやまったのに、ゆるしてもらえない、ゆうくんを、なぐさめてくれません。
おかあさんは、ごはんの、じゅんびで、いそがしいのです。
その日の、よる、ゆうくんは、おとうさんにも、しかられました。
おとうさんは、ゆうくんに、どうして、おうちを、こわしたのかと、たずねました。
あの、おうちは、おとうさんも、てつだって、つくったのです。
「おにいちゃんに、あそんで、もらいたかったの」
ゆうくんは、そう、いおうと、しました。だけど、おにいちゃんに、にらまれたので、なにも、いえませんでした。
ゆうくんは、下をむいて、だまっていました。それで、おとうさんは、がっかりした、ようすで、もう、こわすんじゃないぞ、といいました。
それで、おうちを、こわした、ことは、おしまいに、なりました。
だけど、きっと、おとうさんにも、わるい子だと、おもわれたに、ちがいありません。
ゆうくんは、だまったまま、ぽろぽろと、なみだを、こぼしました。